お菓子作りをされる方が大抵口をそろえて言うのが「お菓子作りはきちんと計量しなければいけない」と言うことです。
私ももともと料理はするものの、味付けなど分量を量ったことは無く、全て目分量。秤はありましたが、使われることも無くキッチンの片隅でホコリをかぶっている始末。
こんな私にお菓子作りなんて無理だなぁ……なんて思っていましたが、いざやってみると「あれ? 出来ちゃった」意外と簡単(笑)。段取りどおりに進めれば作れちゃうんだから、ある意味お菓子作りは料理より簡単かも知れません。
そんなこんなでお菓子作りに目覚めた私は、レシピ本やサイトを調べまくりました。
そこで気がついたのが、材料の分量の違い。お菓子作りは厳密に計量するのが常識だと思っていた私にとって理解しがたい事態ですが、同じケーキでもレシピによって材料の分量が違う!
スポンジケーキ一つとってみても、1グラム単位まで細かく指定されているレシピもあれば、卵〇個とアバウトなレシピもありますし、粉の分量が20%以上も違うレシピまで実に様々。
結局のところ、お菓子作りだからといって構える必要は無かったんです。料理だって塩を入れすぎれば辛くなりますが、1%2%の誤差も許されないわけじゃないですよね。それと同じでお菓子作りにも許される誤差の範囲ってものがあるんです。
プロじゃないんですからそんなに完璧に作る必要もなし、肩肘張ることも無かったんですね。
……とは言え、目分量で適当に作っていたらやっぱり失敗しますよ。当然(笑)。
小麦粉と一言で言っても薄力粉・強力粉・中力粉など色々ありますが、きちんと使い分けられていますか?
お菓子に使う小麦粉は通常薄力粉です。天ぷらやお好み焼き、ホワイトソース作りなど、大抵の料理で使う小麦粉も薄力粉ですので、一般に何の区別も無く「小麦粉」と言う場合は薄力粉を指すことが多いようです。
中力粉は主にうどんの材料。強力粉はよくパンの材料に使われます。この違いは何なのでしょうか。
小麦粉の主成分はでん粉とたんぱく質ですが、そのうちのたんぱく質の含有量によって種類が決まります。たんぱく質が11.5〜13%のものを強力粉、10.5〜12.5%を準強力粉、7.5〜10.5%を中力粉、6.5〜9%を薄力粉と呼びます。このたんぱく質の大部分がグルテンになります。
でん粉は水分が十分にある状態で加熱すると、60℃近辺で糊化し始め、85℃を超えるあたりで全てのでん粉が糊状になります。この糊状の物質がケーキの骨組みになります。
一方小麦のたんぱく質に含まれるグリアジンとグルテニンに水分を加えて捏ねると、結合してグルテンを形成します。
このグルテンは非常に粘りが強いため、お菓子の生地が膨らむのを邪魔したり、加熱すると硬くなったりしてしまいます。
ですので、お菓子作りでは邪魔なグルテンが少なく、必要なでん粉が多く含まれる薄力粉が使われるのです。
お菓子の生地を膨らませているものの正体は、大きく分けて3つ。
@空気
A炭酸ガス
B水蒸気
@の空気で膨らませる代表的なお菓子がスポンジケーキです。卵を泡立てて空気を含ませ、その膨張を利用して生地を膨らませます。
Aの炭酸ガスは補助手に使われることが多いです。パウンドケーキやマフィンは本来バターを泡立てて空気を含ませ、その膨張を利用して膨らませるものですので@に分類されるべきですが、最近は仕上がりを軽くふんわりさせるためにベーキングパウダーを使うレシピが多いようです。
ベーキングパウダーは水と熱に反応して炭酸ガスを発生させますので、その圧力で生地を膨らませるわけです。
Bの水蒸気を使うのはシュークリームやシフォンケーキ。3つの中で最も膨張する力が強いこともあって生地の中に空洞を作るシュー生地や、スポンジよりもよりふんわりさせたいシフォン生地に利用されています。
@とBは熱膨張しているだけですので、焼き上がりの処理が悪いとすぐに縮んでしまいます。
焼きあがったスポンジケーキに衝撃を与えたり、シフォンケーキを逆さにして冷ましたり、シュー生地をオーブンの中で乾燥させるのも全てそのためです。
ケーキ作りには色々と複雑な手順がありますが、その一つ一つには当然理由があります。同じケーキを作るにも、その理由を知っているといないとでは大きな違いが出てきます。
もちろん、レシピどおりに作れば一つ一つの手順の理由がわからなくても誰でも同じケーキが作れます。ただそれでは失敗したときに何がいけなかったのかわかりませんし、レシピのアレンジも出来ません。
そこで今回スポンジケーキ(ジェノワーズ)の手順の理由を考えてみたいと思います。
スポンジケーキ作りでは、まず溶き卵に砂糖を溶かし、湯煎にして泡立てていきます。
卵を湯煎にするのは、温度を高めることで表面張力を弱め、泡立ちを良くするためです。
湯煎にする前に砂糖を溶かすのは、卵の凝固温度を高めるためです。
卵白は60℃程度で変性が始まり、75〜80℃で凝固します。卵黄は65〜70℃で凝固します。砂糖を入れることでこの凝固温度を高め、湯煎しても固まらないようにします。
また砂糖を入れることで卵液の粘度があがり、泡立ちやすくなります。
直火にかけず湯煎にするのも、温度が上がりすぎて凝固するのを防ぐためです。
卵液が人肌より温かくなったら(40℃くらい)湯煎から外して泡立てが終わる頃に常温に戻るように調節しますが、これは温度が高いまま粉をあわせると、必要以上にグルテンが形成されやすいからです。
小麦粉と一言で言っても、薄力粉のほかに中力粉、準強力粉、強力粉と色々有りますし、小麦粉のほかによくお菓子作りに使われるコーンスターチなどもあります。ではなぜスポンジケーキには薄力粉(とレシピによっては少量のコーンスターチ)を使うのでしょうか。
スポンジケーキにおける粉の役割は、ビルで言うところの鉄骨とコンクリートのようなものです。ケーキを膨らませるのは卵に抱きこまれた空気ですが、温めて膨張した空気がいつまでもケーキを支えてくれるわけではありません。何かが空気の変わりにケーキを支えなければならないのですが、その役割を果たすのが薄力粉に含まれるでんぷんとグルテンです。
前出の例えで言うならグルテンが鉄骨、でんぷんがコンクリートです。
グルテンだけでは硬すぎるし、でんぷんだけでは強度が足りません。この2つの適度なバランスがスポンジの弾力を演出するのです。
スポンジケーキにはグルテンはごく少量でいいので、スポンジケーキ用の薄力粉はグルテン(の元になるグリアジンとグルテニン)の含有量の少ない製菓用の薄力粉が適していますが、普通の薄力粉でも100%でんぷんであるコーンスターチを加えることで調節しているのです。
粉あわせの際にさっくりと練らないように混ぜるのもグルテンの生成を最低限に抑えるためです(グルテンはグリアジンとグルテニンに水を加えて練ることで生成されます)。
また粉をあらかじめふるいにかけるのはエアレーションといって、粉の塊をほぐしておくのが目的です。薄力粉やコーンスターチは塊りになりやすく、そのままでは表面張力が働いて粉に水分がいきわたらず、ダマになってしまいます。
基本的にバターと牛乳は生地をしっとりさせるために入れます。
バターを湯煎して溶かして入れるのは、沈殿せずに全体に満遍なくいきわたるようにするためです。
液体を生地に流し込むとその部分の泡が消えて膨らみが悪くなる上、バターの沈殿につながるため、それを防ぐためにヘラで受けながら生地にそっと加えます。
砂糖砂糖は上記のように卵の凝固温度を上げたり泡立てを助けるほかに、生地をしっとりさせる役割もあります。砂糖には水分を抱え込む性質があり、その性質上焼いてもしっとり感が残ります。ちなみにジャムなどが腐敗しにくいのは、砂糖が腐敗菌の繁殖に必要な水分を抱え込んでいるからです。
この保水力はショ糖よりも転化糖のほうが高いため、水飴や蜂蜜を加えるとよりしっとりします。また転化糖は加熱によりメイラード反応を起こし、褐色に色づきます。焼き色をつけたくないなどの理由が無ければ、ほぼ純粋なショ糖であるグラニュー糖よりむしろ上白糖のほうがスポンジケーキには向いていると言えます。
洋酒・バニラスポンジケーキの卵臭さを消すために、洋酒やバニラを加えます。バニラビーンズを使う場合は牛乳で煮出すようにして入れます。手軽な香料としてバニラエッセンス・バニラオイルありますが、それぞれエッセンスはアルコールにバニラの香りを付けたもので、オイルは食用油に付けたものです。
エッセンスのほうが安価ですが、加熱するとアルコールが揮発して香りも飛んでしまいます。ですからエッセンスは冷菓など加熱しないものに使い、スポンジケーキなどにはオイルを使います。
とりあえず思いついたことだけ書きましたが、また加筆修正する可能性もあります。